社内データの共有ストレージやバックアップ機能として、よく比較されるNASとクラウドストレージ。個人利用であれば、導入が簡単なクラウドストレージを選択している方が多いかもしれません。しかし法人利用の際は、導入しやすさだけでなく、運用コストや機能面、緊急時の対応力(BCPの観点)なども重視すべきポイントです。
NASとクラウドストレージは、それぞれ強みが異なります。今回は、NASとクラウドストレージを比較し、社内ニーズに合わせた導入計画を立てる重要性を解説します。
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「ネットワーク」と「インターネット」
NASとクラウドストレージについて解説する前に、両者の特徴をふまえる上で重要な「ネットワーク」と「インターネット」の違いについて、簡単に押さえておきましょう。
ネットワークとは、複数のコンピュータをケーブルや無線などでつなぎ、情報のやり取りを行える仕組みを指します。ネットワークは各家庭や企業、地域ごとにLANを介して構成されているため、同じLANに接続されていない端末とは情報のやり取りができません。
インターネットは、一つひとつ独立しているネットワークをつなげる仕組みです。日常会話で使われる「ネット」は、主にインターネットを指しています。
ネットワークのNASと、インターネットのクラウドストレージ
NASとクラウドストレージは、どちらも複数人でのデータ管理や共有、バックアップを主な目的として利用されます。それぞれの特徴を比較するとき、押さえておくべき構造的な違いは「ネットワークとインターネットのどちらを利用しているか」です。
まずは、NASとクラウドストレージの基本的な構造を解説します。
NASとクラウドストレージの違いとは?
NASは「ネットワーク」に接続して利用するHDD
NASとは、「Network-Attached Storage(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)」の略です。一般的なHDDはパソコンに接続して使用しますが、NASは有線LANでネットワークに接続して使用するHDDです。NASが接続しているネットワーク内であれば、どの端末からもアクセスできるのが特徴です。
たとえば一般的な外付けHDDであれば、HDDが接続されているパソコンからしかデータにアクセスできないため、業務のできる場所が固定されます。しかしNASを利用すれば、NAS本体から離れた場所からでもノートパソコンやタブレットからデータにアクセスできるようになるため、場所に縛られずに業務ができるのです。
クラウドストレージは「インターネット」を利用するサービス
クラウドストレージとは、事業者が持っているインターネット上のサーバーを借りるサービスです。インターネットを通じてデータをやり取りするため、端末がインターネットに繋がっていれば、どこからでもアクセスできます。
有名どころとして以下のサービスが挙げられますが、既に利用している方もいるでしょう。
Dropbox(ドロップボックス)
Google Drive(グーグルドライブ)
Microsoft OneDrive(ワンドライブ)
box(ボックス)
クラウドストレージに保存したデータは複数の人と共有できます。
職場内の部署やチームで共有することで、一つのデータを複数の人が編集できるようになり、編集後は最新のデータに同期されるので常に最新データの共有が可能になるのです。
NASは同じネットワーク内でなければ接続できません。しかし、クラウドストレージはインターネットに繋がっているだけでよいため、アクセスできる場所の自由度がNASよりも高いのが特徴です。
NASとクラウドストレージの比較
ネットワークを利用するNASと、インターネット利用のクラウドストレージ。アクセスの自由度ではクラウドストレージが有利でしたが、ほかに重視すべき点どうでしょうか。
企業が新しいシステムを導入する際、特に意識すべき「コスト」や「機能」、「リスク管理」などのポイントから、NASとクラウドストレージの強みを比較した表が以下になります。
NAS | クラウドストレージ | |
---|---|---|
金銭的コスト | △ | ○ |
人的コスト | △ | ◎ |
機能 | ◎ | △ |
セキュリティリスク | ○ | △ |
データ消失リスク | △ | ○ |
上記の表から、どちらも強みと弱みがあることがわかります。次は、それぞれの判定について解説します。
導入・運用コスト
クラウドストレージはインターネット上のサービスですが、NASは実物がある機器です。NASを導入するためには、機器を購入しなければなりません。購入してからもセットアップしなければならず、ネットワークに関する知識を有した人材が必要です。また機器である以上、経年劣化や物理的な衝撃によって故障するリスクがあるため、定期的な部品交換や日常的な取り扱いへの注意喚起といった配慮も必要です。
クラウドストレージはサービス事業者がサーバーを管理しているため、社内の保守運用コストがかかりません。セットアップをサポートしてくれる企業も多く、ノウハウがない企業でも導入が可能です。ストレージ必要量に応じてプランを複数用意しているサービスが一般的なので、企業規模に適した料金を選択できる点も強みです。
NAS | クラウドストレージ | |
---|---|---|
金銭的コスト | △ | ○ |
人的コスト | △ | ◎ |
機能面
データのやり取りは頻繁に行うため、ストレージをストレスなく利用できるかどうかも重要なポイントです。
クラウドストレージはインターネットを利用しているため、電波の悪い場所ではダウンロードやアップロードに時間がかかってしまいます。またサービスや契約内容によって、転送速度やファイルの自動圧縮といった制限がかかることもあるため、容量の大きいデータを扱う企業は注意が必要です。
NASは物理的なHDDにデータを保管しているため、クラウドストレージのような制限はありません。データ送受信のスピードに影響するのは社内ネットワークだけなので、快適に利用できます。
NAS | クラウドストレージ | |
---|---|---|
機能 | ○ | △ |
セキュリティ
企業がデータを扱う上でもっとも注意が必要なのがセキュリティや情報漏えいのリスクでしょう。データの中には、機密性の高いファイルも多く含まれるため、契約書や社員の個人情報といった情報の管理には細心の注意が必要です。
情報漏えいリスクを考慮した場合、クラウドストレージよりもNASのほうが比較的安心です。社外のサーバーを利用するクラウドストレージでは、サービス事業者が十分に対策を行っているものの、インターネット通信を介した情報流出や不正アクセスを完全に防ぐことはできません。また、外部に機密情報を保管する体制に不安を覚える企業も少なくないでしょう。
NASはHDDに情報を保管しており、社内ネットワークにだけ接続されています。不正アクセスを受ける可能性もゼロではありませんが、インターネット上のサーバーよりは低リスクだと考えられています。
NAS | クラウドストレージ | |
---|---|---|
セキュリティリスク | ○ | △ |
データ消失リスク
データ管理の点で情報漏えいと同じくらい注意したいのが、データの消失です。データ消失は深刻な事故であり、会社の存続に影響を与える可能性もあります。
データ消失のリスクが高いとされているのは、NASです。NASは精密部品で組み上げられた機器のため、本体に強い衝撃が加わったり、停電などで電気供給が急に絶たれたりすると、データが飛んでしまう可能性があります。
しかし、クラウドストレージのデータ消失リスクも低いとは言い切れません。過去には大規模な障害が発生してデータが消失した事例もあります。こうした事例もありますが、通常時のクラウドストレージは、事業者が可能な限りリスク対策を行っているため、NASよりもリスクが低いと言われているのです。
NAS | クラウドストレージ | |
---|---|---|
データ消失リスク | △ | ○ |
【現場の声】使ってみたNASのメリット
実際に使ってみた際のそれぞれのメリットを見ていきましょう。
まずはNASを利用してデータを保存するメリットをご紹介いたします。
社内データ共有のしやすさ
NASは同一のネットワークを使用しているPCやスマートフォンであれば同時にアクセス可能なため、社内でデータ共有がしやすいというのが大きなメリットです。一つのファイルを複数人で閲覧・編集したいという場合でも外付けHDDに比べて効率的に行うことができます。
バックアップ先としても利用できる
NASは複数のHDDを内蔵しているため1つのHDDが故障しても、もう一方からデータを復元することが可能です。自社のハードディスクでバックアップを取ることによって大切なデータを守ることに繋がります。また、社内で1つのHDDを使用することで容量をシェアしながら使用することができます。
アクセス制限を詳細設定できる
NASは、保存・共有されたファイルを開く際にアクセス制限を細かく設定することができます。社内で利用する際には、部署や個人ごとにアクセス制限を設定することで、他部署では閲覧できない専用のファイルを作成することができます。適正にアクセス制限を設定することによって、NASでファイルを共有しても勝手に編集されることや不正アクセスを防ぐことができます。
【現場の声】使ってみたクラウドのメリット
次にクラウドのメリットをご紹介します。
社外からでもアクセスできる
インターネット環境が整っていれば社外からもアクセスできるのがクラウドストレージの大きなメリットです。NASは社内の複数人が同時にアクセス可能ですが、クラウドはいつでもどこでも端末を選ばずにファイルの閲覧や編集が可能なため、外回りなど社外で業務を行うことが多い企業にはおすすめです。
データセンターによる管理
クラウドストレージの特徴は、必要な機器は全てサービス提供事業者が管理するためメンテナンスなどの運用管理が不要なことです。何かトラブルが起きても自社で対処する必要がなく、専門知識を持つ担当者を配置しておく必要もありません。
コスト削減
クラウドストレージを導入するメリットとして、導入コストを抑えることができるのは大きなメリットです。利用料金も、月額制または利用した分だけ料金を支払う従量制が一般的で、メンテナンスやアップデートの必要もないためコスト削減に繋がります。データ保管ツールの導入を検討している方は、まずクラウドのお試しサービスなどを利用してから本格的にどのサービスが自社に適切なのか考えてみるのもいいかもしれません。
クラウドストレージとNASは併用可能
NASとクラウドストレージはどちらもネットワークを使用してデータ保存を行うものです。
データを第三者に預けるのに不安を感じる、手元で管理したいという方はNAS、アクセス性を重視したいという方はクラウドストレージをおすすめします。
それぞれメリット・デメリットが異なるため、保存したいデータに応じて使い分けたり併用するという方法もあります。
まとめ
国内の少子高齢化は加速しており、労働人口が減少を続けているため、企業にとって人材の確保と生産性向上は大きな課題です。この課題を解消するために、オフィス以外の場所で働く「テレワーク」や、勤務時間を柔軟に調整できる「フレックスタイム勤務」といった、自由な働き方を取り入れる企業がコロナを起点に増えています。
政府も『働き方改革』を打ち出し、これまで介護や子育てを機に離職せざるを得なかった人材でも仕事を継続できるように、企業が自由な働き方を導入しやすい仕組みを整えています。全社員が同じ時間、ひとつのオフィスで仕事をする従来の働き方は、徐々に変わりはじめているのです。
社員の働く場所や時間が多様化すると、データ管理が複雑になります。異なる場所からのアクセスがあると、データ共有の利便性やセキュリティへの配慮が必要です。社内ニーズや導入・運用コスト、さまざまなリスクを考慮した上で、NASとクラウドストレージのどちらを導入するか検討してみてください。
NASは複数のHDDを内蔵しているため容量が大きく、バックアップ先として有効に活用することができます。一方クラウドストレージは導入コストを抑え、管理の必要がないため手軽に利用を開始できます。どちらも社内共有の点で優れていますが、社外から利用するシーンが多いのであればクラウドサービスがおすすめです。
NASとクラウドストレージはそれぞれに異なるメリットを持つため、どちらが自社に合うのかを十分検討した上で導入してみてください^^
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